2006年10月11日

いつの日かは忘れてしまったが、
おそらくは最後に日記を書いた前後であろう。

風の強い日で、たしか月曜日だった。

紺色の空を見上げ
風に向かってそぞろ歩きながら
秋の宵もまた、佳いものだと
峻はつくづくと思っていた。

新大橋のてっぺんから吹き下ろしてきた風は、
はるかに直線道路をこちらに向かって吹き抜けて
汗ばみはじめた彼のからだを
すみやかに冷却していく。

その加減が、まさに絶妙というほど丁度良く、
徒歩で火照った分の熱を
ちょうど秋の宵風が吹き冷ましてゆく。
プラス・マイナス・ゼロの勘定なのである。

歩いても歩いても、熱が生まれると同時に涼やかに取り去られる。

峻の脳髄は、これまで味わったこともないその快感に
恍惚としながら、それを貪りつづけた。

時刻は丁度、サラリーマンたちが退ける頃だ。
町には、沢山の背広姿の勤め人たちが
まだ半日ほど残った今日と云う一日をどう過ごしたものか
思案するような面持で、家路を急いでいる。

無表情な顔、寂しげな顔、不機嫌な顔、
何かを何処かに落としてきてしまったような顔。
それらのどのひとつの顔も、
秋の宵の月に照らされて、
神妙に輝ける半顔となって、
ビルの谷間をどこかへと急いでいく。

投稿者 vacant : 2006年10月11日 02:38 | トラックバック
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