2008年05月13日

池澤夏樹のメールマガジン 『異国の客』

その78より引用


  喩えてみれば、十五歳までは人生の質感は粘土だった。
  まだ形はない。
  手でひねればいくらでも変形する。
  しかし一つのまとまったものとして、重さと体積のある塊として、自分の手の中にある。
  それがそこにあることでとりあえずは安心していられた。
  今の生活は仮のものだけれど、いずれは正式のものが送られてくる。
  自分が何者かになることは決まっていて、今はまだそれが知らされていないだけ。
  運命の台帳を信頼してただ待っていればいい。

  しかし、十五歳を過ぎると、その信頼感が揺らぎはじめた。

投稿者 vacant : 2008年05月13日 21:37 | トラックバック
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