January 07, 2006

僕、大きくなったら満州で馬賊になる!

西武新宿、ハシブトガラス、27時47分。

七年前の冬の日、男はひとりで店に入った。
薄暗く湿度の高いバーカウンターの前に座っている。
周囲から聞こえてくるのは、英語圏の人々の英語、英語圏ではない人々の訛りの強い英語と、テレビから流れるサッカー中継の歓声だった。

男よりもいくつか若く見えるバーテンダーは、注文を受けると必ず二度以上聴き返し、二度目以降のオーダーが必然的に大声にならざるを得ないという不穏な空気を醸し出している。
ブラウン管には、南米らしきサッカークラブチームのユニフォームが二色ばかり見え、客のほとんどが眺めていたが、試合の経過には興味が無いらしく、画面上に映る企業広告の話題すら噛み合わない。

男が四杯目のウシュクベを頼むと、無駄に若いバーテンダーは何度目かも分からずに「牛首?」と返してくる。
彼の襟元を掴むのは、物理的に容易ではないと冷静に判断し、同じことをもう一度大声で丁寧に告げた。

暴力がコミュニケーションツールのひとつではないということに気付くのは随分と後のことだ。
他人の襟首なんぞ掴んだことも無いが。

投稿者 yoshimori : January 7, 2006 11:59 PM | トラックバック
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