April 07, 2006

『或る日の航海日誌』

九面体とは? 漠然と問われても成す術がないように、かの構造物の展開を知らない。
6が6であるが所以のルーツを探れとか、ナイルそのものが川であることの注釈を求められてもただただ困惑するだけだ。
島田結いとは誰にでも出来るものではないのと同様に。

名も無き小島を離れ、頼りない小船に揺られている。
太陽の沈む方角から飛来した小鳥の運んできた小指ほどの小枝は、大地の存在を示すものと信じ、大海原を西へと針路を向ける。
絶海の孤島での生活を脱し、危険な船旅を決意したのは、人は大地に立ってこそ生きていると感じたことに他ならない。

雨粒の数だけ裏切られ、星の数ほど苦い思いをしてきた。
例え行き着いた先が砂漠、湿原でも構わないと上陸を切望するのは、まだ何かを信じるだけの力があるということだろうか。

航路は果てしなく、海上の闇は死を支配する。
やがて小鳥は羽根を毟られて胃に収まり、堅くて短すぎる小枝は爪楊枝の替わりとなる。

かつて小鳥だったものは姿かたちも無い。
そもそも飛来したのは鳥だったろうか。
鳥に似せた何かだったかもしれない。
西へ向かう行為を誘発する罠かもしれない。
徒労に終わるとしたら、次に何を目指せばよいだろう。

三日前から神の声が聴こえ始めた。

「志村ー、後ろ後ろー」

無駄だけが真実と知る。

(了)

投稿者 yoshimori : April 7, 2006 01:15 PM | トラックバック
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