September 06, 2006

"Corbicula Fluminea (1980-2006)"

女、一度帰ると言ったものの、何に引かれたか結局は酒を飲んでいる。

やや大蒜の効いた焼き蜆は気に召さなかったのか、ひとつきりで終いにしている。

店に置いていた焼酎を手酌で飲み干し、終電を気にしている様子もない、はずもなく財布をいそいそと取り出す。

「じゃあそろそろ」

男は改札まで女を見送り、馴染みとなるにはまだ早い店でひとりビールを飲んでいる。

「先日はすいませんでした」
何だっけ?
「折角来て頂いたのに」
ああ、全然。気にしないで。
「いや、そう言って頂けると」

男は柱の陰に隠れる酒瓶の銘柄を伝えてもらい、飲み方すらも任せている。

「どうぞ」
ありがとう。

煙草を吸い終わると同時にグラスを飲み干し、支払いを済ませ扉へと向かう。

「ありがとうございました。またご贔屓に」
ごちそうさま。

やや痺れた前頭葉をなるべく動かさない歩きで家路を急ぐ。
眠い、とベッドに倒れる。

眠りに落ちる瞬間、男は思う。

蜆、旨いのにな。

(了)

投稿者 yoshimori : September 6, 2006 11:59 PM | トラックバック
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