July 10, 2007

『慙愧』

雨降る古書店街。

数年前まで毎週通っていたカレー専門店へ。
カウンターに向かい、注文を告げる。

後続の客、儀式的に店内全員に向かって「こんちはー」と挨拶。
やべーのが来た風な空気が漂い始め、全員の握るスプーンが緊迫感を醸し出す。
しかも隣に座るのかよ。

男、入店時から誰に話しているか分からない発言を執拗に繰り返す。
固定されたカウンター前の椅子に腰掛けながら、ジーンズの尻ポケットに手を掛けつつ、

「あ、今財布出しますよ」

ってそれは椅子に言ってんのか、手前のケツに話しているのか。
別に前金制でもないのに、カウンターに置かれる野口札。
店員、忙しくて構ってやれない様子。
ようやく彼の置いた野口に気付き、注文を尋ねる。

「えーと、ね、カツカレーにコロッケとシューマイふたつね」

もう聴いてるだけで胸焼けしそうなセレクト。
しかもメニューを告げるところだけ妙に早口。
嫌がらせとしか思えないオーダー。
案の定、注文を繰り返す店員に対し、若干切れ気味に回答。

「カツひとつー、コロッケひとつー、シューマイだけふたつね。で、カレーね、カレー」

改めて聴かされるメニューの羅列に込み上げる熱い想い。

「やっぱりなー」

ってお前、新聞も何も読んでないじゃんか。
ひとり言は行動の説明に相違ないが、彼にはロジックは通用しない。

「あ、例によってご飯少なめにね、例によって例によってね」

常連らしい発言ではあるが、一言も二言も多いと神経はささくれ立つ。

早く帰りたいなあと彼とは別方向に移動しようとも、無情にも椅子はボルトで固定されているのだった。

(了)

投稿者 yoshimori : July 10, 2007 11:59 PM
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