July 15, 2010

『七月中席~九山八海(くせんはっかい)』 (第弐回)

意識を消失する前、最後の記憶は"mi-n-mi"という響きに似た単語だったと思う。
とはいえ、同名のレゲエミュージシャンとは無関係であることだけは理解していただきたい。
まだ正気を保っていた頃に訪れた店の名かもしれないが、今となっては最早確かめる術もない。

およそ六時間に及ぶ昏睡から目覚めると、外は暗いながらにも夜は明けており、人々は動き出している。
動き出しているのは事実なのだが、平日の早朝にしては、歩く人の数が少な過ぎることに気付く。

そう、ここは東京ではないのだ。

記憶を頼りに向かう駅舎は、改装中という名目によって閉ざされており、言葉の通じない異国と同義でありながらも、勝手の分からないひとんち的な温かさとも隔離された世界
駅数は少ない筈なのにその距離に起因する高額な運賃の紙製切符を買い求め、手動改札で手渡す切符は入鋏され、人気もまばらな階段を昇降し、乗るべき電車が発着するプラットホームを目指す。

空は暗灰色に包まれている。

連なる山脈を背にしてホームに降り立つと、荒ぶる海の側には廃墟と呼ぶべき、かつてプラットホームだったであろう構造体が見え、不穏な心象を象徴的に植え付けるが如く、半ば強制的に行われる刷り込みに、心は酷く疲労するのだ。

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やがて二両編成の車輌が到着し、スライド式ではない半観音開きとも呼べる開閉式の扉から車内に乗り込むと、間髪入れずに老兵の断末魔にも似たブザー音が響き渡り、車輌は軽妙に走り出し、可聴域を脱した低音を内臓で聞かされながら、目的地を目指すのだった。

ここでまた記憶は途切れる。

誰かに揺り起こされた気がした。
目覚めた瞬間は、追い詰められた者特有の顔をしていたと思う。
車窓から外を見ると、降りるべき駅によく似ている。
大した確証もないまま、急かされる様に扉から出ると、果たしてそこは目指す場所だった。

改札は無人である。

使用済みの切符を入れる専用の木箱が設置されているが、年代物とも呼べるそれの投入口より見える闇に戦慄を覚え、入れるべき切符は握り締めたまま、駅舎からできるだけ遠くに離れたいとばかりに早足で立ち去るのだった。

やがて縁者の住まう居へと到着し、何泊か世話になる旨を告げると、階上の個室をあてがわれる。
重過ぎる荷をようやく肩から解放するのだ。
階下にて過剰なほどの朝食を摂らされ、少し横になるも睡魔は襲っては来ない。
不意に思い立ち、鉄道を利用して少し離れた土地に行こうと準備を始める。
前述の通り、空腹感は欠片もないのだが、目的地を駅に隣接したファストフード店と設定した。
どれだけ遠方に行くのだろうかと訝(いぶか)しむのも無理はない。

ローカル線に一時間ほど揺られ、銅器の町とも呼ばれる終着駅へと到着。
鉛色の空はやがて落つる零滴を湛えているに相違ない。
目指すは当駅の南口駅舎だったが、長い構内を抜けて屋外に出ると、そこには工事車輌が行き交う現場と騒音。
かつての駅舎は、白い壁に囲まれており、中では重機が巨象が咆哮を続けるが如く暴れている様子。
壁の隙間から中を覗くと、・・・更地だった。
後で知るのだが、2009年12月までは当駅舎内に店舗が存在していたという。

何しにここまでやって来たのか分からなくなり、倒れそうになる身体を両腕で支えながら、まずは正面となる北口を目指し、地下道に潜るとそこには地下商店街が拡がっており、そこはかとない期待感を持つ。
がしかし、シャッター商店街とはよく云ったもので、定休日でもなく通常の営業時間中でありながら、全店舗は何の説明もなく休業している。

そして、現時点で空腹ではない。

何もかも諦めた者の表情をしていたと思う。
全てをリセットしようと、最後の力と惰性で北口へと回り込み、駅前を散策しようと行動する。
駅前には年代物のビルヂングがあり、その外観は風雪に晒されて独特の風貌を備え始めている
いかにも廃墟な鉄錆の外階段と吹き抜け、廃病棟を思わせる緑色の塩ビ床、廃れた魚市場で使い込まれた手鉤、眺めているだけで暗い闇に取り込まれそうな螺旋階段、「フリー七千円」というベニヤ板の手書き文字。
全てが負の要素で満たされている。

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ここに長く居てはいけない。

ビル内に鎮座している、起源も不明な社がある。

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萬福神社@下関町

曇天は更に鉛の濃度を増している。
もう失うものは何もないのだ。
駅前に掲示された地図を頼りに移動を開始する。

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天狗乃肉@大手町

物騒な店名だ。
看板商品であるコロッケには心惹かれるが、今はその時ではない。

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古城公園@古城

濠に浮かぶ数羽の白鳥が羽根を休めている。

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越中総鎮守 射水神社@古城

祭神は瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)という。
かつては二上神(ふたがみのかみ)だったが、現在では二上射水神社@二上山麓に祀られている。

予想していたとはいえ突然、集中的な豪雨となる。
雨具は何ひとつ持たないので、身動きが取れない。
しばらく軒下を借りることにする。

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十五分ほどだろうか、雨宿りが功を奏し、再び曇天の下へ。

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護国神社(末社)@古城・椿山

本社と同様に、祭神は殉国の英霊という。

公園を離れ、古刹を目指す。

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浄土宗 鳳徳山大佛寺@大手町

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銅造阿弥陀如来坐像

奈良、鎌倉を含む日本三大大仏であるという。
ただ自称という説もあり、大仏界では三番目を狙って変動している。
歌人、与謝野晶子は当大仏像をひと目見、
「鎌倉大仏より一段と美男」
と評したとも云われているが、こうしてる間にも三番手候補である岐阜、兵庫、東京、牛久にその座を奪われているかもしれないのだ。

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県社 高岡関野神社@末広町

江戸期までは、加久彌神社(神明社)、関野神社(熊野社)、高岡神社(稲荷社)と分かれており、関野三社と呼ばれていたという。

さて、小腹も空いたので、駅前に戻ろう。
一時間に2本程度の列車運行ゆえに、次なる行動に入る前に発車時刻を確認せざるを得ない。
それは、この土地で生きてゆく為の知恵だ
40分後の乗車を想定し、昼食を摂るべく飲食店を探す。

・・・果たして、例のファストフード店がそこにあった。

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南口店、地下街店の閉鎖を目の当たりにし、一度は諦めたものの、駅舎待合室の中にて営業中の札を出していたのだ。

目指す品を券売機にて購入。
カウンター越しに従業員へと手渡す。
しばし待つ。

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ちゃんぽん

長崎で著名なそれとは縁遠い、文字通りミクスチャーという意味でしかない。
奇跡の融合を目にし、雨中、廃墟と古刹をめぐり巡りたどり着いた約束の地で、人知れず意識が遠のく

帰ろう。
もうここには用はないのだ。
奇跡とは自らが火中に飛び込んでこそ価値のあるものだ。
そして誓おう、愚かな行為に魂が燃やし尽くされようとも。

(續く)

(0802工期満了)

投稿者 yoshimori : July 15, 2010 11:59 PM
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