April 15, 2011

『終ノ棲家』 (第拾弐回)

<快刀乱麻>
首都にある港町を徘徊している。
深夜に泊まりもしない宿屋の酒場で管を巻いていると、小悪魔的な様子の女から話し掛けられる。
「あんたさ、暇してるんだったらあたしらと一緒に仕事しない?」
・・・えーと、ちなみにお仕事は何をしてらっしゃるんですか。
「不二子ちゃん」
何ですと?
「もう何度も云わせないでよ、明日の夜十時に此処に来て」
と地図に書き込んでくれた印を見ると待ち合わせ場所は人里離れた農場である。
どうせ世間に顔向けし難い事に違いないと決め付け、周辺に伺ってみると果たして其の通りである。
女らの仕事は、町で男どもを誘い、「続きは農場でね」と呼び出して、さあこれからだと服を脱いだところで有り金を巻き上げるという画期的な手口である。
しかも、男どもも身の覚えある後ろ暗さの所為か、然るべき場所へ訴え出れないという完璧さ加減で、成る程正に、不二子ちゃん
で、翌日約束の時刻に農場を訪れると、例の手口で不二子ちゃんズに入れと勧誘される。
そんな安い仕事が出来るけぇと言下に断ると、女らは狭い室内でぎらぎらと光る物騒なのを抜いて襲い掛かって来やがる。
腕に覚えはあるのだが、狭い個室で複数の女に飛び掛られた経験は皆無なので、大変に苦労して何とか返り討ちに。
小銭稼ぎの小悪党を皆殺しにしてしまうのも如何なものかと思うが、殺意を持って刃物を向けて来たのだから、過剰防衛とは云え、降りかかる火の粉は払わねばなるまい。
さて戦利品でもを捜そうと室内を物色
寝室の箪笥から三名の男性名が付いた衣類を発見。
此の三点は町ですれ違えば挨拶を交わす男どもの名だと気が付き、持ち帰って彼らと面会を果たすのだが、三名とも自分の衣類に何の反応を示さない
何だい、折角人が親切心で届けてやったのにさ。
まァ彼らにとって忘れたい過去を無理に引っ張り出す事も無かろうと思い直し、古着屋に売り払って当方でも忘れる事にしよう。

(續く)

投稿者 yoshimori : April 15, 2011 11:59 PM
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