August 17, 2011

『忘却界の女』 (第57回)

<獺ノ背>
神々と人類が共存する世界観ながら、自然の摂理に不具合があるらしく、時折生命に関わる現象に悩まされる事もしばしば。
中央部にある都市の郊外を歩いている。
水際から対岸を眺めると、中州と呼ぶには大き過ぎる小島に円柱形の建造物が見える。
元来用の無い場所ではあるが、白地図を埋める意味を込めて上陸してみる。
周囲を散策すると鉄格子で仕切られた出入口を発見するも、開閉の取っ手は錆び付いており回らない様子。
諦めも悪く地団駄びょんびょんと跳ね回り、壁を跳び越せないか試してみる。
ついぞ格子は開かないながらも、かつての要塞だった外壁の隙間にうかうかと入り込んでしまい、内部への侵入が可能となった。
実はこの廃墟では、多額の借金を背負った債務者を集めての人間狩りの会が定期的に行われており、事前に被害者の関係者からの救出を求める声を耳にさえしていれば、手順を踏んで往来可能な場所なのである。
事件の関係者が不在のまま、人間狩りの参加者が集うという情報さえ知らない状態で狩場に向かってみると、中は鼠の巣窟である。
隅々まで探索すると、最深部にて物騒な武装を纏った屈強な男が徘徊している様子。
彼は本来であれば、マーンハンティーングの参加者の一人であるという。
自らの姿を曝すと猛然と襲って来やがったので、俄然返り討ちとする。
亡骸の所持品を漁ってを入手し、施錠された宝物庫内を物色してから悠々と脱出を図ろうとするのだが、扉を開けた刹那、身動きが取れなくなった
正当な手段で扉を開くと、今正に当事件の最後の犠牲者が殺害される瞬間を目撃する筈なのだが、その場に居る筈の加害者も被害者も不在な為、万物の法則が働かないのである。
小川のせせらぎ、虫の啼く声や小鳥の囀(さえず)りさえ皆無な静寂の中、妙齢女子の放つ男らしい嗽(うがい)音を黙って聞くしかないのだ。(何だそれは)

(續く)

投稿者 yoshimori : August 17, 2011 11:59 PM
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