2006年03月21日

「――辛い話ですね。
『本当にねえ。日本には昔――昔っていったって、百年も前のことじゃないですよ――女や子供がそんなふうに扱われる時代があったんですよね』」

「そういう自分本位の人間は確実に増えていると、葛西美枝子は言う。
『今の若い人なんて、みんな八代祐司の素因を持っているんですよ。親のことだって、便利な給料配達人と、住み込みのお手伝いさんぐらいにしか思ってないんだものね。若い人には、八代祐司の気持ち、判るんじゃないでしょうか』」

(宮部みゆき『理由』 朝日新聞社 ISBN4-02-257244-2)


藤原正彦先生が讃えた「日本」も、
生活の現場から見れば
美しいばかりじゃない。

過去にも、未来にも、ひそむ
日本の薄暗い陰。

・・・

ひょんなことから、生まれて初めて、宮部みゆきを読んだ。
まるで落ちている本を拾ったに近いような偶然で。

ずっと前から、この手の本
読もう読もうと思って、
ずっと読むきっかけがつかめずにいた。

この手の本とは、

今の日本の
本好きと呼ばれるフツーの人たちに
広く人気があって
直木賞を受賞してしまうような
ミステリー仕立てや
恋愛仕立ての
小説

のことです。

高村薫『マークスの山』は、平成3年の直木賞。
宮部みゆき『火車』が、平成4年の山本周五郎賞。

もう十年以上前から、
ひとびとはこの手の本に夢中になっていて、
私はこの手の本を読むきっかけを見つけられずにいた。

宮部みゆきも、高村薫も、東野圭吾も、桐野夏生も、
重松清も、角田光代も、江國香織も、
川上弘美も、唯川恵も、京極夏彦も、
石田衣良も、阿部和重も、

私はいまだ、一冊たりとも読んだことはない・・・。


新しい小説との最後の出会いは
もう十五年くらい前に、池澤夏樹を発見したことで終わっていた。

そこから何の進化もとげていない。

吉本ばななと格闘するも女の感性を受けつけられず挫折したり、

『風の歌を聴け』の出だし2行がトラウマになって挫折したり、
(後に『羊をめぐる冒険」』『世界の終わり~』は読了。)

読まないと社会化できないのでは、と強迫観念にさいなまれながら、
出来がいいのかわるいのかよくわからないエッセイ以外は
ついに一冊の小説も読んだことがない村上龍とか、

高橋源一郎も、島田雅彦も、結局一冊も読んだことない。
平野啓一郎や中原昌也だって、読んだこともない。
町田康や吉田修一も、ほとんど読んだことはない。

じゃあ、私はいったい何を読んでいたのだろう。

どんな道をほっつき歩いてきたのだろう・・・。


『スティル・ライフ』で出会った池澤夏樹は、
同じ頃、同じように沖縄へと意識が向いたこともあって、
すべての著作を追いつづけた。

向井敏からは、『文章読本』で数々の本を手ほどきされた。

同じく、中村明(『名文』)や、阿部昭(『短編小説礼賛』)らからも
たくさんの小説を教えてもらった。

10歳で星新一に教えてもらったSFは、
J.G.バラードや、レイ・ブラッドベリとなり、
サキや、南米文学や、泉鏡花、都築道夫のなめくじ長屋捕物帳。

志賀直哉や梶井基次郎をしつこいほど読み返したり、

世の例に漏れず、司馬遼太郎にはまってみたり
松本清張の短編を集めたり。

永井荷風『濹東奇譚』や
内田百閒『東京日記』をいまさら発見して興奮したり、

その合間合間にいくつものエッセイやノンフィクションを・・・

・・・

いったい私の全読書人生を書ききれるはずなんてない。

何を書きはじめるつもりなのだ?

そう。

宮部みゆきである。

初めて読んだ。

びっくりした。

「ひとつのエレベーターの昇降ボタンを押せば、制御コンピュータの働きにより、いちばん近いところにいるエレベーターが反応して昇降してくる。都心のホテルやデパートなどでは当たり前の設備だが、大規模集合住宅で採用されているのはまだ珍しい。」(同上)

ノンフィクションの名手、海老沢泰久でも、本田靖春でも、伊佐千尋でも、こんな書き方をするだろうか。
エレベーターが下りてくる理由が「制御コンピュータの働きに」よることを、小説で語られるとは思わなかった。

感想。

哲学書より、純文学より、数千倍もためになる。

みなさん、この手の本を読んで、社会化しよう。


つぎは、
(『10年後の日本』文春新書 を読みさしながら)

高村薫『レディ・ジョーカー』を読みはじめている。

一橋文也がノンフィクションの筆で書いた世界を、
この手の本は、どう表現してくれるのか。

どう私を、社会化してくれるのか。


投稿者 vacant : 2006年03月21日 00:14 | トラックバック
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コメント

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