2006年07月14日

2002年8月5日(月)

奈良美智「I DON'T MIND IF YOU FORGET ME」展
〈弘前市 吉井酒造煉瓦倉庫 2002年08月04日(日)~2002年09月29日(日) 〉

その初日を観に行った翌日の感想文。


-----Original Message-----
Monday, August 05, 2002 6:06 PM

奈良さんがこども時代を過ごした故郷で、
こどもばかりを描いている奈良さんの絵を見る。
そのことが持つ意味の深さが、
展覧会を見ている最中よりも、
帰ってきて一日たった今になって、感じられてきました。
いままで私は、なんだか漠然と、
奈良さんはこどもを描くのが好きなんだ、と思ってました。
それが大人の姿の比喩だったりしても、
それをこどもの姿にして描くのが好きなだけなんだ、と思っていました。
描かれるこどもは、奈良さんにとって、対象であり他人だと思ってました。
しかし、弘前展のチラシ裏面の文章や、
A-ismに寄せた文章を読んでいるうちに、なぜだか、
奈良さんは、自分のこども時代のことを描いているんだ、
と思えてきました。
じぶんのこども時代に固執する人、それが奈良さんだと思いました。
こども時代が忘れられない人、忘れたくない人、です。
そう思うと、
描かれている女の子も、もしかしたら何割かは奈良さん自身だったり
するのでしょうし、自身ではなくても、
大人の眼が見たこども像というより、こども時代に見たこども像の記憶
という気がしてきます。(それは考えすぎか。)
また、
今回の展覧会のタイトルも、
横浜展の時の解説では、「僕のこと忘れることなんかできやしないさ。」
という反語的な意味だと書かれており、
なんとなくその「僕」というのは奈良さんが皆に向かって言っているのかと
受け止めていましたが、
今回、その「僕」というのは、奈良さんの(じぶんの)こども時代の思い出たち
で、
こども時代の思い出が、奈良さんに向かって言っている言葉なのか、
と思いました。
だから、「忘れてもかまわないよ。」と言っているのは、
奈良さんが蒐集してきた思い出たちであり、
こども時代に固執してきた画家、奈良さんが、あえて
その固執をいったん、まとめて片付けようという
大いなるチャレンジが、あのタイトル作品なのだと感じました。
(そしてだからこそ「忘れることなんかできやしない。」という反語的な
意味が活きてくるのでしょう。)
そう考えると、
この展覧会ツアーは、
奈良さんの、「じぶんのこども時代への固執」への終止符
ととることもできそうです。
なにかまったくあたらしいものが描きたいんだ、という画家の気持ちが
見え隠れしているようにもとれます。(また考えすぎか。)
でもやっぱり「忘れることなんかできやしない」のか。

いずれにしても、
じぶんのこども時代のさまざまな記憶やイメージが、
カタチを変えて作品になった今回の展覧会は、
他のどこよりも、弘前で見るのにふさわしいと感じました。
少なくとも、横浜で見るのとは、その意味が、全く異なって見られました。
もしも、
会場のそとの賑わいもなく、
奈良さんへの先入観(予備知識)もなく、
偶然、あのような場所で、あの展覧会に出会った、と想像すると、
なんだか静かな興奮が起きてきます。
私自身、
人一倍、過去の思い出に固執する人でした。
記憶をめでて楽しむ人でした。
ただ、社会人になるとともに、多くの人と同じく、そんな固執も無くなっていき
ました。
だからこそ、
こども、というひとつのテーマを描き続ける奈良さんには、
強い共感と、そしてその孤独な作業には、なんだか怖れをも感じます。
そんな感じです。


投稿者 vacant : 2006年07月14日 16:12 | トラックバック
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