February 26, 2008

◆『代ワリ明ケリテ、夢荒ラシ』

前回と同様、普通に職場へと通勤する類の人種とは程遠い、老若男女の「老」ばかりがやたらと目立つ会に向かう。

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『中目黒落語会』、略して「中落」

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<二ツ目> 春風亭 一之輔

一之輔の前座時代、ある噺家から「お前は虫けらだ」と評されたという。
具体的な名前は伏せておきますが、と続けた言葉が、

笑点大喜利において中央に座する若干黄色の高座着を羽織る師匠

という。
該当するのはただひとり、林家 木久扇(旧・木久蔵)

「お前はだ」
「セミって、あの夏にジーと鳴く?」

ジーでもミンミンでもいいんだ。蝉は八年間土中で過ごす。長く暗い地中の暮らしから這い出て、大空に羽ばたくんだ」
「でも師匠、蝉は外で一週間しか生きられませんよ」

「心配するな、安静にすれば十日持つ

って実話かネタか判断に困る。

春風亭 一之輔 ■ 代脈
代脈とは「代診」のこと。
先生の代診として商家へ赴く玄関番の小僧、若先生を名乗り娘を触診。
無知無教養の男が厳粛な場で巻き起こす騒動という落語の定番をなぞる様に事態は進行し、やがてサゲへ。

欲望に忠実、食い意地を張る、自由にも程がある発言に代表される絵に描いた様な小僧演技が素晴らしい。
今年で三十という年齢に見えない貫禄、早く真打に上がれ。

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<真打> 六代目 春風亭 柳朝

柳朝、どう見ても前席の一之輔より若く見える
全体の線が細い上に髪型が色気づいた高校生なのだが、六代目の名跡を継ぐ真打

春風亭 柳朝 ■ 明烏(あけがらす)
「遊び」を知らない商家の若旦那、札付きの遊び人からの誘いで浅草寺裏の稲荷に参詣しようと、吉原に連れ出される。
俗事に疎い堅物が、未知の領域で素っ頓狂な発言、行動を繰り返すという落語の定番をなぞる様に事態は進み、サゲへと向かう。

江戸文化の伝統芸能を踏襲する立場か性格の為か、町人や花魁の仕草描写がやたらとディテール細かく演じている。
年配の演じる女形よりは、若造の方が「まだ見るに耐える」ということか。

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春風亭 一之輔、再び

春風亭 一之輔 ■ 夢金
「百両欲しーいー」と夜毎寝言を繰り返す船頭、雪の夜に船宿を訪ねる侍とその妹を深川までへと舟を頼まれる。
実はな船頭と、件の侍、妹と称した女は騙して連れてきた商家の娘で、持っている百両という大金を奪おうと、船頭へ殺しを持ち掛ける。
当然断る船頭に殺すと脅され、止む無く承諾し割り前を聞くが、

「冗談じゃねえ! 何であっしが二両ですかい! 山分け、四分六ぐらいじゃねえと割に合いませんや!」

さっきまで自分を殺そうとした侍に食って掛かる。
実は侍が泳げないと分かり、騙して中州に置き去り、娘を助けて礼金をがっつり頂いた瞬間、
「百両ー!」と目が覚める。

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六代目 春風亭 柳朝、再び

七代目 立川 談志のエピソード。
新宿末廣亭での高座を控え、楽屋が騒然としている様子。

「いるの?」
「いるんだよ」
「誰が?」
家元が」
「まじで?」
「ほんとだって」
「どれ?」
「あ、ほんとだ」
「やりにくいなー」

新宿に来たから、というただそれだけの理由ではばかりを借りて帰るという。

前座時代の談志、先代 柳朝にいじめられていたという過去を持つ為か、今でも「柳朝」の名には何かしら思うところがあるようだ。

春風亭 柳朝 ■ 荒茶の湯

豊臣家恩顧の荒大名七名が、徳川家重臣、本多 佐渡守 正信の招きにより茶会へと赴く。
が、武功で成り上がった荒大名の中で茶の心得があるのは、細川 忠興のみという。
私と同じように振舞え、と他六名に言い渡し、本多家へと向かう。
忠興を上座に据え、茶道に疎い他六名、真似するつもりがアドリブが利かない為に予期せぬ事態となってゆく。
次座の加藤 清正、愚直が災いし、次の席へと伝えきれぬまま伝言ゲームの様相を見せ始め、「御詰め」と呼ばれる末座の福島 正則においては、他の者と同様にしてはいかんと、型破りな行動により毎回オチに使われる

清正と正則の間の他四名(加藤 嘉明、黒田 長政、池田 輝政、浅野 幸長)は、人数合わせに呼ばれた合コン参加者の様に目立たない。
確かに8人演技はさぞ辛かろう、と同情を禁じえない。

寄席も終わり、東横線、山手線で新宿へと移動します。

(了)

投稿者 yoshimori : February 26, 2008 11:59 PM
コメント

「えー春風亭柳昇といえばわが国では私一人でございます」って懐かしいですな。こんど寄席にご一緒させてください。

Posted by: 六ヶ所村ズドラマー : March 3, 2008 11:57 AM

私が落語に触れ合った最初の噺家は、

「もうほんっっと大変なんすからもう、ほんっっとにカラダだけは大事にしてください」

の人でした。
ていうか、この人が落語やってるところを見たことないですが。

今度ご一緒致しましょう。

Posted by: 義盛 : March 3, 2008 09:17 PM

柳朝師匠の話でしたね。柳昇と間違えました。

Posted by: 六ヶ所村ズドラマー : March 4, 2008 09:14 AM

五代目 柳昇師匠は5年前に逝ってしまいました。
柳昇師匠の次男がアニメ監督だった為か、声優としての実績のある柳昇ですが、「入学式の挨拶で落語を始めてしまう校長」役だったのを思い出します。

ちなみに、当代の柳朝は今年で38歳の若造です。

Posted by: 義盛 : March 4, 2008 09:41 AM
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