August 10, 2010

『八月上席(千龝樂)~首斬り箍屋』

早い時間に退けたので、都営線を二本乗り継ぎ、目指す店へと向かう。
外に出ると陽射しは薄れて風も出てきたようで、日中に比べるとかなり涼しい。
並木に止まる啼く蝉の声が複数種重なって聞こえる。

春日駅にて乗り換える。
大江戸線は深くて遠い。

17時半前に到着。
店内は既に満席に近い。
麻雀卓如き色合いのカウンターへと通されると、A5サイズの菜譜を手渡される。
卓も看板も同色、緑色は当店のカラーのようだ。
麒麟の描かれた大瓶と看板商品である湯麺を頼む、ついでに灰皿も。
灰皿までも緑色である。

しばし待つ。
18時前の時点で混雑しているので、ぼんやり待っていても頼んだ品は直ぐには来ないのは承知だ。
大瓶がみるみるに近付いてゆく。
ややゆっくり目に切り換える。

口径が広く底部までが浅い器が運ばれて来た。
鶏ガラから成る白濁としたスープに満たされた白い陶器、湯に沈む縮れた太い麺の上の目立った具はもやし、白菜の芯の他、賽角の豚肉片のみ。
思いの外あっさりとしており、このままでは大瓶が進まなくなることに危惧し、当店もうひとつの看板商品を一枚追加する。
程なくして運ばれるそれは、細長い皿に羽根付き状態で七つ並ぶ全てが連なっている。
卓上の醤油、酢、「すな(香味具材)」入りの辣油三位一体とし、ミリセカンド単位で調味料の微調整を重ねてゆく。
皮の一枚いちまいが厨房の男らによって粉から手作られ、油焼かれ、蓋蒸され、そのもっちりとした皮の中身は、満州仕込みのレシピという具材、白菜が中心となって、韮、生姜、豚肉が入る。

ようやく満たされたと完食し終え席を立つと、店内の混み合い具合もひとつの佳境を迎えつつあるようだ。
ひと運動の後の如き発汗手拭で押さえ、再び暖簾を外へ押し出だす頃には店頭には行列ができており、(明らかに没落ではあるが)貴族の心持で鼻唄混じりに、尻尾を立てて道行く猫の後ろを着いて歩くのだった。

(了)

投稿者 yoshimori : August 10, 2010 11:59 PM
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