October 30, 2010

◆『十月下席(千龝樂)~雙六(すごろく)』

えェ、酷ぇ降りでござんす。
こんな日にゃァ家に籠るのが大人の正しい休日の過ごし方なんでしょうがねぇ、生憎前売りにてテケツを押さえてたもんですから、致し方なし崩しに向かうしかないンですな。

「ふりだしの 日本橋から雨にあひ ぬける程ふる鞘町の角」

なんてぇ紫檀楼古木(したんろうふるき)先生の狂歌がござんすが、此処日本橋は振り出しどころの騒ぎじゃァありませんで、鄙びた澁谷より地下鉄で来たなんてんで、斯様な風情もないまま吹きッ晒しの中を傘ァ差し掛けて小屋ィ飛び込みます。

『一之輔十八番作りの会 真一文字三夜 <第三夜>』
@日本橋本町三丁目・お江戸日本橋亭

春風亭一力◆作文「一之輔と私」

「春風亭一朝の六番弟子ですっ」
・・・此の方、喋りがリアル与太郎さんですなァ。
よくできましたよくがんばったねぇ的な拍手を浴びまして高座を下がります。

春風亭一之輔◆初天神

「午前中、福島県相馬市に行って来ました」
「学校寄席に呼ばれまして」
「スーパーひたちに乗ってゆくんですけれども」
「新幹線の福島駅まで行って、そっから在来線で戻るんですよ」
「駅まで迎えに来てくれた学校の先生が云ってましたね」
「『相馬の凄いところはね、八戸にゆくよりも時間がかかるんですよー』」
「ってそれは自慢にならないだろ!」

「で、在来線に乗り合わせた高校生がねぇ、もう馬鹿でね」
「(鼻をふがふがさせながら)『何か寒くね? 寒くね?』」
「鼻で喋りますね、馬鹿は」
「『台風来てね? 台風来てね?』」
「だから来てンだって!」

「外が寒くて中が暖かいと窓は曇りますね」
「で、あいつらほんとに窓に『バカ』って書くんですよ、指で」
「それ見た女子の馬鹿が『超うける~』」
「って別に羨ましかァないですけどね」

「まァそんな福島ですけど、実際に行った学校の生徒さんはそんな馬鹿じゃなくてですね」
「落語を聴いて笑ってくれる、とってもよい生徒さん達でした」
「一緒に行ったのが、紙切りの(林家)二楽師匠でして」
「あの師匠、殺人鬼の目をした紙切りです」
「生徒さんからの紙切りリクエストを訊くンですが、皆さんシャイなのか手を挙げなかったりすると」
「『はいそこのきみ、何切って欲しいの? 何、どれ、何? 早く云わないと次に行けないよ』」
「って生徒を追い詰めるんですよ」
「で、追い詰められた生徒さんが『ト、トラック』って云いまして、二楽師匠は無事に切り終えて楽屋に戻ってくるんですけれども」
「その時に、『いまどきトラックって云うかねぇ』」
「ってあんたが云わせたんだろ!」

「うちに息子がひとりいるんですけれども」
「これが少しあれで、脳が足りんのですよ」
「『おとうさんおとうさん、どようびなのにどこにいくんだよ!』」
「お父さんはお仕事に行くんだ」
「『なんのためにいくんだよ!』」
「お前たちに飯を食べさせなきゃいけないだろう」
「『いいよ、ぼくひとりでたべられるもん!』」
「・・・いや、そうじゃなくてさ」

「また別の日ですが」
「『おとうさんおとうさん、どこにいくんだよ!』」
「(春風亭)百栄と二人会だ」
「ぼくとおかあさんよりももえがいいのかよ! そんなにももえがだいじか!」
「いや、それはどうでもいい。お前とお母さんの方が大事だ」

本来であれば、「初天神にゆくから羽織を出せ」という亭主に難癖付けて金坊を押し付けるカミさんとの遣り取りがあるンですがねぇ、一之輔あにさんはいきなり父と子が並んで歩く処から始まります。

お仲入りで御座ィます。

春風亭一之輔◆駱駝(らくだ)

一時間以上に及ぶ大根多です。
大家さんちの前でらくだの死骸にかんかんのうを踊らせるのを見た大家さんちの婆さんが倒れまして、それを大家さんが抱き起こすという仕草が堪りません。
屑屋の久さんが茶碗酒を何杯か煽りました末の愚図愚図っぷりが素晴らしいですなァ。

追い出しの太鼓が鳴る頃にゃァ颱風は何処吹く風てんで、沙汰止みとなっております。
ふりだし日本橋本町を後にしまして、傘さえも放り出し河岸ィ変えまして、鄙びた地で杯一やりやしょうかねぇ。

(了)

投稿者 yoshimori : October 30, 2010 11:59 PM
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