November 26, 2010

『十一月下席~入鉄砲に出女』

新宿区を徘徊している。

繁華な小路を通って路地を折れると、公共の場では迂闊には声に出すのも憚(はばか)られる名の風俗店に隣接する店がある。
先客はひとり、知らない御仁である。
開け放たれた扉から足許を吹き抜けてゆく外気は日中の陽気を懐かしむ程に冷えている。
まァ未だ一軒目なので都合三杯で止しておこうか。

山手線に乗って降りても矢張り新宿区である。
更に地下鉄一駅分を歩き、六十年代な名の店に入る。
私より後に続く男女二名の客は知っている顔である。
何故か街で見かけた笑いの取れる風俗店名の話になり、自分が経営している訳でもないのに大賞をいただく。
(諸事情から店名等詳細は割愛するが、先年山中で滑落されて亡くなった作者の代表作、埼玉県某市を舞台とした幼児が主人公の作品)

春日部に本店があればいいのに」
幸手(さって)にあればどうかな」
「近い近い!」

当店では二杯にて差し許す。

新宿区勤務の知人より着信があり、同三丁目にて合流。
この知人の知人が経営陣のひとりという店を目指す。
ややもすると過剰な期待がない訳でもない。

旧態然とした雑居ビルの細く暗い階段を三階分上ると、昼でも治安の悪そうな踊り場に出る。
がしかし、扉を開けるとそこはされおつ内装のダイニングバーである。
当店自ら路地裏ダイニングと日蔭なテイストを打ち出しながらも、他種に比べて脂肪が少ないという近江黒鶏(おうみこっけい)を大きく取り扱う健康志向な店でもある。
が、それはいただかない。
鶏の脂身を気にするよりも、進んでジャンクな揚げ物に手を染めてゆきたい。

ここでは四杯
知人の知人の知人という頼りない繋がりの特権(かどうかは分からないが)で伝票上は僅か二杯となっていた。
ありがてぇかっちけねぇと階段を降り、先の店へと出戻る

件の男女は未だ居るようだ。
男は長電話をしているようで、店外へ出たっきりなかなか戻らない。
余計な関心を持つのは止そう。

ここでは三杯
気が付けば終電が走り去る寸前である。
大人は急がない。
泰然自若と構え、暮れゆく週末を上から目線で眺めるのだ。

(了)

投稿者 yoshimori : November 26, 2010 11:59 PM
コメント
コメントする









名前、アドレスを登録しますか?