January 03, 2011

『眉月の酒器(びげつのしゅき)』

東京に戻る日。
午前中には発とうと仕度を始める。

最寄りよりもひとつだけ東京寄りの駅まで車両にて移動。
道中車窓から目にしたのは、「業者並に多量のトロ函を台車で運搬する腰の曲がった老婆」と「駅前通りに銭湯と思いきや実は焼き場の煙突」という地方行政における負の遺産が凝縮されたかの如き悲哀漂う風景である。

11:07 xx はくたか9号
13:02 越後湯沢 Maxとき324号
14:20 東京

東京駅から乗り換えた中央線の向かいに座るぐるぐるパーマネントを載せた髭面の若造は隣に座る女子に対し、自らのアピールに余念がない。

「高円寺に住んでるんだ」
「そう」
「じゃァさ、xxって通り知ってる?」
「知らない」
「知らない? あまり出歩かないの?」
「別に」
「その通りに沖縄料理の店があるんだけどね、俺そこで働いてっからさ、今度遊びに来てよ」
「沖縄?」
「そう、xxって店」
「? も一回云って」
「xxだってば」
「? どんな字書くの、それ」

嗚呼それなら知ってる行った事があると云ったのは若造の隣に座る女子ではなく、自分の胸中でのみ響いた軋みに過ぎない。
素っ気無い女子の受け答えから滲み出る「たぶんきっと行かないから」オーラを肌で感じながら、家路を急ぐのだ。

(了)

投稿者 yoshimori : January 3, 2011 11:59 PM
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