March 16, 2011

『継ぎ目無きヘリウムの都』 (第参回)

<渺茫>
治安の悪化が懸念されている波止場地区へと向かう。
船上に足を踏み入れると、船舶を所有するという女性が悲しみに打ちひしがれている様子。
聴けば、母の形見を奪われたという。
船員らは皆殺しにされて今も船内に転がっているとの説明があり、形見の奪還を依頼される。
成る程、経営者然とした人を人とも思わない高見の発想である。
よもや肯定の回答が得られるとも思っていないのか、引き受ける旨返答すると大層驚かれる。
意を決していざ船内に入ってみると、話の通り、物騒な剣を振り回す宙に浮いた奴らが徘徊しており、各船室には船員らが死屍累累と横たわっている。
船内は狭い上に奴らの斬撃が骨身に堪えるので此の儘逃げちゃおうかとも思ったが、よくよく見れば奴らは両手を広げた格好でしか移動が儘為らない為、全開の扉さえつっかえて通過できないと判明。
計略図に当たりと、狙い撃ちにて四体を葬る
無事に母の形見を女性に手渡し、報酬として受け取ったのが、高価ではあったが重くて持ち歩きづらく、今の自分には全く不要な物だった。

<暗黒物流>
どうにも暮らし向きが良くならない。
不眠不休で働き過ぎだろうか。
金銭的には恵まれているのだが、貧乏性なのか基本的に買い求めたりせず、落ちている物や奪い取った物で間に合わせている。
素手での格闘経験が乏しいので、結果的に腕力がほぼ鍛えられず、戦利品の運搬が困難である。
落ちている物自体は商店でも販売されている購入可能な品なのだから、もう見限ってもよいかとも考えるが、受動的な追い剥ぎの生活から抜けられず、悪党の所有物を合法的に略奪する行為が止(や)まらない。
今の職業は何だと問われれば、胸を張って正義の味方とも云えず、ただただ口篭るばかりである

(續く)

投稿者 yoshimori : March 16, 2011 11:59 PM
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