March 27, 2011

『継ぎ目無きヘリウムの都』 (第陸回)

<びりびり天國>
街ですれ違っただけの薹(とう)の立った女より「山頂にある遺跡の中で行き倒れた死体を捜して所持品を漁って中から本を奪って持って来て、ただし皆には内緒よ」と頼まれる。
随分と乱暴な話ですよねー、なんてへらへらしながら自分の所属する組織の上司に相談したら、「その女が欲しがっている本は、お前みたいなぺーぺーには手にする事も出来ない激レア本に違いないから、見つけたらまずこちらに届けろ」と藪蛇な感じで寝返りを要求される。
どちらの依頼者も感じ悪さ全開なので無視してもよかったのだが、この業界で生きてゆくからには長い物には巻かれないと出世も望めないと覚り、いちおう権力者である上司の命に従って険しい山道を歩き頂上を目指す。
目的地である遺跡の入口には、何故か野晒しの焼死体があり、成る程殺伐さ加減に余念が無い。
遺跡奥に横たわる朽ち果てた遺体より所有物を剥ぎ取り、即下山して目的の品を上司に手渡すと、「これだよこれこれ、お前には読めもしなかっただろ、これは儂(わし)が厳重に保管するからな、わはははは」などと手より毟り取った割には、上司ってば自室にも保管庫にさえも施錠してないという抜け作っぷりで、管理能力を疑うしかないのだ。
で、外でぼんやりと突っ立って居る薹立ち女に上記の旨報告すると物凄い剣幕で、「あんた自分が何やったのか分かってんの!? 今すぐ取り返して来なさい! あんたんちの組織なんだから出入りも自由でしょ!」と一喝され、これは収まらないなと考え、ぼんくら上司の引き出しを開けて例の物を盗み取って女に渡した。
一日が過ぎて女と話してみると、「報酬は例の山頂でね」などと物騒な物言いをされ、またあんな辺鄙な場所まで行かされるのかと渋々向かい、目前に転がる焼死体の前で指示通りの作業を行った結果、思わず雷撃を受けてしまい、罠だ、死人に口無しとばかりに裏切られたかとも考えたが、そのびりびりにより何か特殊な能力が備わったようだ。
が、如何せんこの特殊能力は使い勝手が悪く、これが報酬かと思うと遣る瀬無い事この上ない。
翌日、しれっと上司に例の本の話を振ってみると、「あー、あれな、いつの間にか紛失しててな、お前からその話を振って来るなんて、・・・もしかしたら何か知ってんのか?」なんてまたもや藪蛇ではあったが、それ以上は特に詮索も無くぼんくら上司で助かったとほっと胸を撫で下ろすのだった。

(續く)

投稿者 yoshimori : March 27, 2011 11:59 PM
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