March 28, 2011

『継ぎ目無きヘリウムの都』 (第漆回)

<五里霧中>
所属する組織の地方支部へと赴き、代表への顔見世がてら同僚にも愛想を振り撒くのも忘れない。
椅子に座りながら読書している爬虫類顔の女に挨拶すると、この女が支部の代表だった。
聞けば、皆に知られたくない話があると云いつつも、自分の部下が徘徊する場所から動こうともせずに話を切り出す。
「彼氏がー、ていうかぶっちゃけ彼氏でもないんだけど、何かヤバイことになっちゃっててー、何て云うかさー、向こう側に行ったきりんなってて帰って来ないのね、でもでも、あたしここの代表じゃん? だから手下どもにも相談できなくって困ってんのー、だからさー、あんたさー、ちょっと頼まれてくんない?」
上役には常に諂(へつら)うと決め事にしているので、へいへいなんでげしょう、とよくよく聴いてみれば、その彼氏とやらが自らを高める為に此処ではない何処かに旅立って帰って来ないから、捜して連れて帰って欲しいという。
人捜しは骨が折れるなと思いきや、女の後を連いて行くとその男は自宅でうなされながら寝ていた
どうなってんのこれ。
「いや、だからさー、夢の中から連れて来てって云ってんの」

無茶云うなよこのトカゲ女、と返してもよかったのだが、まァそういう趣向なら付き合ってやってもいいかなとして云われた通りの行動を何故か下着姿のままで実行し、彼氏とやらを無事に連れ帰るのに成功。
いやーよかったよかった何事もなくてねー、などとさぞかし両方とも安堵していると思いきや、その瞬間、がちゃぎーばたんと扉が開いて誰かが室内より出て行った気配がした。
辺りを見回すとトカゲ女は不在で、残されたのは満身創痍でほぼ全裸に近い自分と、寝起きで薄ぼんやりとした彼氏しか居ない。
人が命懸けで救出してやったというのに、トカゲ女は礼の一言も無いまま一人でとっとと帰ってしまい、後を追い掛けて話してみると、読書しながら平然と次の指令(ストーカー撃退の依頼)を出してきやがるし、彼氏の方は彼氏の方で何が気に入らないのか、まだ陽も高いというのに「そろそろ帰ってくれませんか、用事があるんです、お願いですから帰ってくれませんか」と繰り返すばかりだ。
・・・どうなってんだ、お前らの親の教育はッ!?
人間不信に拍車が掛かる或る日の午後の出来事でした。

(續く)

投稿者 yoshimori : March 28, 2011 11:59 PM
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