April 06, 2011

『終ノ棲家』 (第玖回) ※

<霧笛ガ聞コヱナイ>
港町波止場地区不動産物件を購入。
六畳一間、木造の棟割長屋である。
調度品は火の絶える事の無い暖炉、薄汚れた夜具蒲団一式卓袱台が一脚。
夜も更けゆくと近隣住人らの不穏な行動(深夜徘徊、物騒な言動)が目に余り、うかうかと自宅での就褥も儘ならない。
先行きが不安なので、訳知り顔の先人に立地と住宅事情を尋ねると、「あー、あの家ね、盗ッ人がうろうろしてるから気を付けたがいいよ、あとねー、お化けとかは特に出ないけど、蒲団に横になるとすーぐ患うよー」との物言いである。
何が「すーぐ」だと思いつつも、よもや疾病付きの訳あり物件とは露とも考えず、只只何の病に罹るのかも知れず、自宅で朝を迎える行為さえも戦戦恐恐とする日日なのである。

<世襲ノ功罪>
南方にある辺境の都市に来ている。
周囲には河川、沼地や湿地帯が目立ち、水棲植物も豊富に生えているという環境。
所属する組織の支部長に媚び諂(へつら)いに行くと、「頭の中で声がするの」という認知症を超えてヱキセントリックな老婆(支部長)より亡くなった父親の所持品である装飾品を捜して欲しいと依頼される。
宇宙意思からの電波指令を傍受したが如き発言ばかりの老婆は、近隣にある廃墟となったに手懸りがあるという。
曖昧な情報を元にして早速向かってみると、内部は住所不定な夜盗と山賊の合宿所と化しており、物騒な得物を振り回す輩で溢れ返っているという趣きである。
物捜しに託けて亡き者にされるかと疑心暗鬼にもなったが、それでも遺骨の納まった棺より無事に支部長の父の形見とやらを発見し、さあ帰ろう出口を目指すと、突然現れるひとりの男。
何処かで見た気がして思い出してみると、前述の支部に居た愛想の悪い眉毛が激しく繋がった常時仏頂面な同僚だった。
「ちょいと待ちねぇな、兄弟、それェ持ってっちゃっちゃァわっちが困るンでさァ」
いやいや、だってさ、これは支部長のお父っつぁんの物でしょ、返すのが筋だし。
「あの老いぼれさえ居なけりゃァわっちが支部長になれるてぇのに・・・、それを返しちゃっちゃァ老いぼれが正気になっちまわァな、人の出世の邪魔する奴ァ、あ、こうしてくれよう」
なんて大見得を切りながら、いきなり骸骨一体を呼び出してから短刀を抜いて斬り掛かって来た。
そういう腐れた了見なら遠慮なく返り討ちだし、一対一なら負けないぜと軽く殲滅
で、この野郎の落としたレア物らしき短刀を戦利品として持って帰ろうと、床に這い蹲(つくば)ってまでも捜しまくるが、終ぞ見つからない。
ったく、しけてやがんなァと舌打ちしながら元同僚の亡骸を跨いで砦から脱出
街に戻ってヱキセントリック婆に品物を渡すと、何かの作用で脳内が活性化されたのか、日常会話が可能になるまで恢復
成る程、媚び諂うべき上司のリハビリの為には、ひとりの同僚の人命さえも惜しくは無いのだ。

<滂沱落涙>
前述の街と同所にて、言語障害にも近い話し振りの獣じみた男より宝石捜しの依頼を受ける。
宝石の由来をざっくりと解説すると、以下の通り。
ある地方で起きた旱魃に悩まされた領主は水不足を解消しようと、ファンタジィ作品や郷土民話によく見られる「水が無限に湧き出る壷」的な品を求めて自ら旅に出た。
善政で親しまれた領主は、自らの犠牲も厭わない民衆の為の騎士であったという。
しかし惜しいかな、旅の果てに辿り着いた地にて目的の宝を手にしながらも、それを守護する番人との戦いに敗れてしまい、命尽き果ててしまった。
その領主の悔し涙が結晶化して宝石になったというのだ。
・・・ていうか全ッ然見つかりませんが、何処に在りますかねぇ、さっき足元でからからからからって何か小さいのが落ちたような音が聞こえましたけど、あれですかね、あ、やっと一個見つけた、ていうかほんとに涙サイズでしかも地べたと同色ってどうよ、え? 五つ? 五つもあんの? ・・・手前ェが捜せよ!
半ば切れ気味にイチジク型のあれみたいな形の涙を五つ回収。
街に戻って獣じみた男に手渡すと謝礼として幾らか呉れた。
捜索に裂いた時間と労力に比べて報酬が見合わないと感じた時点で自分は民の為の騎士ではないと覚るのだ。

(續く)


※(改題)『継ぎ目無きヘリウムの都』 (第壱回~第捌回) #001-008

投稿者 yoshimori : April 6, 2011 11:59 PM
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