April 18, 2011

『終ノ棲家』 (第拾参回)

<絵空ノ事>
櫻の花も散る頃ではあるが、今春大学に入学する運びと為った。
筆記試験も面接も無く、推薦のみに特化した大学受験である。
自らが所属する組織の各支部の支部長より用事を言い付かり、成し遂げた結果を報告をして、都合六枚の推薦状を書いて貰う。
内容は、子供の使いから過剰防衛的大量虐殺までと多岐に渡り、此の業界の特色としては、組織の上位に就けば就く程に性格破綻者が鰻登りに増加傾向にあって道は困難を極めたが、今思えば其れも遠い昔話である。
入学後に早速「見習い」という屈辱的且つ不名誉な役職で呼ばれ、諸先輩方であるあにさんねえさん方からは虫けら同様の扱いを受ける。
話し掛けても口さえまともに利いちゃァ貰えねぇ。
幸い教授の一人からは慈悲深く見守られており、幾つか任務を授かる事が出来た。
任務ですと?
学校って何かを学ぶ舎ではなかったかしら。
入学早早、教授の助手という立ち位置、扱き使われるのは目に見えているのだ

<蛾蜻蛉ノ季>
教授より「貸した本を取り返して来い」と仰せつかる。
聞けば、西隣にある領土を治める一国の領主から例の物を返して貰えという。
虫けら同然の自分に一国の代表が会う理由も無かろうとは思ったが、教授より「組織の名代だから」と諭され重い腰を上げる。
のろのろと西へと向かい、領主の秘書官との面会を許されるが、「うちの大将は人嫌いだからなー、明日来たらもしかしたら会うかも」と何だか煮え切らない返答である。
翌日、出入りの業者に紛れて出頭すると、何故か小声の秘書官より「深夜二時なんだけど、うちの大将、呪われた洞窟の前で会うって」との言。
何だ、その殺す氣満載な場所と時間指定は。
罠と知りながらも待ち合わせの場所に赴くと、秘書官と知らない人がぽつねんと立っている様子。
領主とやらは何処かしら。
「うちの大将は来ないよー、お前は此処で死ぬんだよー」
想像通りだからまァいいけど、隣に居る人は誰なのさ。
「教えなーい」と秘書官と知らない人は全力で襲い掛かって来るが、過剰防衛にて撃破
戦闘後、亡骸を漁っていると、背後から呼び止める声が。
すわ仲間が他にも居たのかと身構えるも、高価そうな衣装を纏った領主その人だった。
「お前は阿呆か、如何いう了見でこんな所まで来るんだ、お前の組織も阿呆だ、阿呆揃いだ、まァでも其の阿呆どもお蔭で秘書官が俺に隠れてこそこそとしてるのが分かったし、一党を皆殺しにしてくれたから良しとしよう、お前のボスにもそう伝えろ、此の馬鹿」
おっさん口が悪いにも程があるのだが、領主の発言から自分は組織より捨て駒にされていたと知る。
組織の目的は、領主の機嫌伺いに非ず、動向の監視だった。
詳細を此処で語るとなると長くなるのだが、ざっくり解説すると、自分の所属する組織の長が派閥闘争の果てに追い出した一派があって、彼らは水面下で暗躍しているという。
此の秘書官は其の一派に属しており、彼の上司である領主がどちら側に就いているのか知りたかったようだ。
大学に帰って教授に報告を済ませると、彼は薄ら笑い「ごめんねー、危ない目に遭わす積もりなんてなかったんだけどね、結果こうなっちゃってさ、でも位あげちゃうから機嫌直してよ」と「見習い」から次の位に昇格
・・・如何にも世知辛いとは云え、人は何かを犠牲にして生きてゆくしかないのだ

(續く)

投稿者 yoshimori : April 18, 2011 11:59 PM
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