May 10, 2011

『幻想ト猊下』 (第弐拾陸回)

<絶望ト恍惚>
其の地方の長(実は杖の爺ィ)より、爵位を呉れてやると云われる。
貰える物は何でも貰うのが身上ではあるが、当然条件が付き纏う。
「暗殺ね」
何ですと。
「暗殺を知らんのか」
知ってますよ、知ってますけど其れはー、人としてどうでしょうか。
「だって、殺さんと椅子が空かんじゃないか」
・・・勇退とか駄目すか。
「聞く耳持たんな」
糞爺ィ。
「何をぅ!」
聞こえてるし。

しかも、当地方は宮殿を挟んで南北に分断されており、何方かの領主としての爵位を授けるという。
ざっくり云うと、方や陽性、方や陰性人柄と土地柄である。
絵的には陽性側の領主に就任したいのだが、そうなると薬物中毒だけが罪である現・領主を殺害せねばならないし、陰性側である疑心暗鬼を絵に描いた女領主が憎いかと云われればそんな思いも無きにしも非ずとは云えども、陰性爵位の環境は微妙だし、等等思い悩むこと数分、即決しろとの言に逆らわず、陽性を選択
「あー、彼奴も遂に退職か、ていうか殉職? そういやァ最近陰薄かったしなァ、じゃァ毒殺でよろしく」
此の糞爺ィ。

夕餉支度中のヒレ肉と葡萄酒致死量の薬物を混入させ、自ら晩餐会にも出席して見物する事数分。
現領主、薬物摂取による昂揚感からか、食卓より立ち上がって歌い踊り出す。
時折目が合うも、つい逸らしてしまうのも暗殺者の人情なのだろう。
やがて現領主は、心臓が息が歌が、と苦しみ出し其の場に斃れて事切れる。
側近どもは棒立ちとなっており、自分が疑われやしまいかと側近の一人(料理番)に恐る恐る話し掛けてみるが、「祭りの始まりだァ!」と振り付きで踊り出し大変に浮かれぽんちな様子。
早速杖の爺ィに結果を報告すると、晴れて公爵に任命され領地を与えられる。
・・・もう後には戻れないのだ、逝く処まで逝くしかないのだと自分に云い聞かせながら玉座に座るのだ。

(續く)

投稿者 yoshimori : May 10, 2011 11:59 PM
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