May 25, 2011

『幻想ト猊下』 (第参拾弐回)

<三ツ巴>
「地球」という大仰な意が名付く洞穴前に居る。
地球は意訳であり、直訳すると「岩乳」である。
まァ其れはさて置き、空は晴天、小鳥が囀り花も咲いているというのに、薄暗い地下へと潜ろうとしている。
此処は「黒川弓子団(仮)」と名乗る、近隣を荒らす盗賊どもの巣窟となっているという。
早速木戸を押し開け忍び入って見ると、大勢の人数の怒號と悲鳴が洞内に響き渡る。
黒弓っ子倶楽部の仲間割れかしらと訝(いぶか)しむが、如何も様子が違うようだ。
侵入者対策の岩石落下罠も楽に作動し始め、複数の人間が圧死する厭な音が響き、内部は大混乱大混戦の体を相している。
数人が奥へと駆けて行き、弓矢を番えるぎりりという撓り、びょうと空を裂く摩擦音、ぎゃあという断末魔が幾つも聞こえ、蔭から覗いているだけで死骸の山が段段に積み重なってゆく。
同層での混戦が収まり、人気が無いのを確かめてから斃された人人の素性を探ってみると、黒弓ズは元より山賊ズと野盗ズも加わっての総当たり戦となっていたようだ。
漁夫の利とばかりに遺品を漁り、選別しながら貴重品のみを剥ぎ取ってゆく。
死屍累累とした風景を横目に、幾つかの乱戦を見守りながら最深層まで降りてゆくと、黒弓団長が一人ぼっちである。
いや、もう一人、ていうか団長の愛玩する畜生が一匹のそのそと歩いている。
近付いてみると此の飼い犬に名が付いている、其の名も「かぼちゃ」
団長、不思議ちゃんだなァと思いつつ、かぼちゃ犬に何らかの特殊な技を施して団長を襲わせ、此の不毛な戦いに終止符を打つのだった。

(續く)

投稿者 yoshimori : May 25, 2011 11:59 PM
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