August 15, 2011

『忘却界の女』 (第56回)

<修羅ノ道>
殺伐とした世界観が故に、都市部を離れた郊外の街道沿いは昼夜問わずに物騒である。
登山からの帰路、下山道から北西部にある地方都市に向かう道中、山賊の襲撃を受けている新聞配達人(♀)の姿を認める。
こういう修羅場に際しては、慌てず騒がず傍観と決めているので、ある意味見殺しである。
か細い上に丸腰の配達人は、陽に灼けた屈強な男の振るう先端が鈍く碧色に輝く鈍器により殴打されている様子。
やがて配達人は絶命し、移動手段である黒馬が一頭事件の現場に残されているのみである。
そんな惨劇の最中、何の因果か一頭の鹿が紛れ込んで来た。
栗色の毛並みで角も短い小柄な牝鹿である。
この世界における鹿は生物学的に臆病な為、人の歩く気配だけで全力で逃げてゆくのが常なのだが、この時ばかりは何故か猛然と攻撃を仕掛けている。
四つ足だけに、後脚で立ち上がりつつ前脚に自重を乗せての振り下ろしである。
しかも、対象は悪の山賊ではなく、罪無き馬へ。
・・・って、バンビーノ!
長い物に巻かれるのがお前の処世術だとしても、その選択はきっと間違っているぞ。
鹿は山賊と共闘して馬を斃すと、山賊より次の標的にされるのさえ理解しないまま、山賊の持つ例の鈍器にて瞬殺されていた。
山賊が去った後の街道脇の繁みには、配達人と馬と鹿の亡骸が悲しく横たわっている。
・・・馬鹿な子、馬肉は取れないけど鹿肉は貰っちゃうから。
こそぎ取った新鮮な鹿肉を懐に仕舞うと、立ち去った山賊の後を颯爽と追い駆け背後から襲って斬殺(当然、義憤ではなく金品目当て)
下着だけを残して身包みを全て剥ぐと、息絶えながらも握り締めた血濡れの鈍器(高価)を手から奪い取り、戦利品の数々を売却すべく街道を下って鼻唄混じりで街へと帰るのだ。(外道)

(續く)

投稿者 yoshimori : August 15, 2011 11:59 PM
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