March 31, 2011

『御菜八ヶ浦』

年度末、去りゆく人は涙と共に去りゆき、残る人は大あぐらで居残る非情の時季である。
我々の中からはひとりの若造が放出されるという。
時節柄致し方無しと送別の準備を進めている。

「聞いてください」
何だい。

あいつの買って来る菓子、全んん部はずれなんですよ」
・・・あいつって、・・・ああ、今期で居なくなるうちの無駄に若い奴ね。

「そう、奴です、あいつです。特にが酷いんですよ」
あー、よく百均で買ってるのを目撃されてるよ。

やっすい飴ばっか買ってっから失敗するってのが未だに分からないんですね」
そういやァ前に一度、おみくじ付きのケミカルなりんご味とあんず味の飴をもらったな。

「あ、それ僕も食べました。縁日のかき氷のシロップ味でしたね。後で頭痛がしました」
頭痛って。そのおみくじの内訳がまた斬新でさ、全開けしても大吉がひっとつも無いの

「えー? 僕、中吉でしたよ」
そう、それがMAXでひとつぐらいしか入ってなくて、あと少量の小吉と吉と末吉が続いて、いちばん多いのが何故か

「・・・愉しむ要素が微塵も無いですよね」
あいつ、飴センスゼロだね

「全くです。その前はスイカ味で、もう見るからにケミカルなアカミドリなんですよ」
まァ何となく想像つくね。

「これがまたすんげぇ不味くて、赤い身を食い終わった後の皮の味がするんですよ」
・・・或る意味忠実かもしれん。

「・・・あと、レモンも大変でした」
あまり失敗要素無さげなのに?

「・・・酸っぱくないんですよ」
劇的に甘いの?

「・・・苦いんです」
・・・はァ。(ため息)

さようなら、若造。
新天地では菓子買いの腕を磨くがよかろう。
遠い目で老婆心ながらとひとつ忠告しておくのだ。

(了)

投稿者 yoshimori : March 31, 2011 11:59 PM
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