May 31, 2012

『流刑地より乗馬で3.5ハロン』 (第20回)

◇女である。

◇馬を一頭所有している。
◇「まだら」とも表現されるが、白により近い明るい茶の毛色である。
◇この馬には所有者となる以前より「霜」を意味する名が与えられている。
◇雌雄は不明である。

◇この「霜」は、各地域にある馬屋にて中古車価格で店頭販売されている地味な毛色(焦げ茶、暗いモザイク)の駄馬よりも遥かに美しく速く、そして力強いのだが、如何せん血気盛んで好戦的なのが玉に瑕である。
◇主人を守るとかそういう観点からではなく、自ら渦中に飛び込むというこの無駄に江戸っ子気質が所有者たる自分に取っちゃァ迷惑も甚だしい。
◇街道をひた走っている道中、暴漢や野生動物に襲われた際、応戦に備えて騎乗の人から大地に降り立った瞬間、猛ダッシュで敵まっしぐらな奴を「待ってぇー」と追い駆けて再び鞍に跨るという展開は何度も繰り返された喜劇である。

◇今日もツンドラ地帯では、狩人らが狩猟に勤しんでいる。
◇放たれた鏃(やじり)の飛んでゆく先では箆鹿(へらじか)が数頭倒されており、戦果に満足気な狩人らは戦利品を頂戴しようと獲物へと近付くのだが、突然の咆哮と激しい震動による巨大爬虫類の出現とともに、否応なく文字通りの死闘へと巻き込まれてしまう。
◇下馬の直後に「霜」が最前線に向かうのは必至なので、当然自分は馬可愛さから騎乗のまま傍観に徹っするしか選択肢がない。
◇狩人のひとりが巨大爬虫類の太い尻尾で叩き飛ばされ、上に開いた木の洞(うろ)の中で息絶えたのが見えた。
◇その向こう側では、偶然通りかかった軍の伝令兵が振り返りもせずに走って逃げている。
◇生き残った狩人も弓矢で攻撃を続けているが、硬い鱗に阻まれて致命傷を与えられないようだ。
◇さて、この難局で自分と馬に何ができるだろうか。
◇・・・さすがにこの馬も切り立った崖からダイヴして敵に向かうほど愚かではあるまい、と考え、ありえない角度で付近にそびえる岩山の頂を目指し、そのフラットとは呼べない山頂にて馬を置き去りのまま下山し、戦いの場へと戻ってみる。
◇確かに馬は下りてこないが、絶壁に対してほぼ垂直に張り付いている馬のシルエットが遠景に見え、夕陽を受けた逆光となって黒い影と映り、そのありえなさ全開の絵面には笑みをこぼさずにいられない。
◇平地にて狩人と共闘して巨大爬虫類を倒し、馬の元へと急ぐ。
◇・・・あ、傾斜が急過ぎて馬に近付くこともできん。
◇また逢う日まで、と斜めになった馬にしばしの別れを告げ、その場を去るのだった。

(續く)

投稿者 yoshimori : May 31, 2012 11:59 PM
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