June 17, 2012

『小夜啼鳥の左眼』 (第23回)

◇女である。

◇泥棒組合の統領にまで昇格し、上納金を受け取る身分に。
◇各自治領での犯罪がうかうかと露見しても、一握りの賄賂と組織暴力的な威圧で円満解決可能な闇の実力者である。
◇・・・何という事だ、性善説を信じて世の為、人の為と尽力を注いだ結果がこれだ。
◇これからは影を支える力となって真っ当に生きよう。

◇まァそれはさて置き、次なる転職先は「暗殺者集団」である。(・・・舌の根も渇かぬ内に)
◇それは就職前に遡る。
◇北方地域の東部にて、孤児院から逃亡したひとりの少年が、院長憎さに毎夜毎夜と悪魔的な儀式を繰り返しており、近隣住人が怯えているという。
◇様子を見にゆく。
◇「わァ、きてくれたんだ! まいにちまいばんいつかいまかとまってたよ!」
◇何でしたっけ。
◇「ずっといってるじゃん、いんちょうをやっつけてほしいんだ」
◇引き受けるかどうかは別として、その孤児院に行ってみよう。
◇「ぜったいだよ!」

◇孤児院は少年の元住居より南下した都市の外れにあった。
◇院長先生、地元では「親切者」で通っているという。
◇・・・話が見えないな。
◇こんにちはー、と扉をくぐる。
◇「この無駄飯喰らいの豚どもめッ! お前らに里親なんか無理だね。ここできりきり働かない奴は何処に行ったって同んなじなんだよッ! 一生お前たちを奴隷の様にこき使ってやるから、覚悟をしッ!」
◇・・・って分かり易過ぎてなるほど、これは殺害動機としては充分だな。
◇「何だい、あんたは」
◇少しお話が。
◇「話なんてないね」
◇・・・困りましたね。では失礼して。
◇「ゆ、床に何を置いたんだい、それをどうするんだい」
◇この世界ではオブジェクトそのものにダメージ判定があり、例えば「頭蓋骨」という物騒なオブジェクトを地面に置いて、その上を助走して駆け抜けると、物理演算の結果によって、丁度ビリヤードにおけるキューがボールを突く角度と速度で転がって弾かれるのと同様に、力点と作用点のエネルギー運動で頭蓋骨はフットボールの起源を追うが如く足で蹴られて飛んでゆくのである。
◇説明終わり。
◇以上を踏まえ、軽く室内をうろうろしていると幾つかのオブジェクトは転がり、結果的に院長の泣き所にヒットしたらしく、低い呻き声と共に椅子の背もたれにゆるゆると崩れ落ちた。
◇脆っ。
◇(後で聞けば、院長の生命力は「1」として設定されているらしく、どんな些細な攻撃でもすぐに昇天する)
◇孤児院に残された少年少女たちがどうかと思うほど狂喜乱舞して明るい未来を互いに語り合う傍ら、副院長は突然の院長の死に激しく動揺し、きゃあきゃあと逃げ惑うばかりである。
◇あんたがしっかりしなくちゃ。
◇「何なの、出てってよ! お願いだから早く行って!」
◇衛兵に通報する様子もないので、ここはひとつ大人しく引き下がるとしよう。

◇この地を離れ、依頼人の少年に結果を報告。
◇「やったね! いんちょうをやっつけてくれて、ありがとう! これはわがやにつたわるかほうのさらだよ、ほうしゅうとしてうけとってね!」
◇ただ一枚の皿を受け取り、帰路へ着く。
◇夜半、床に就く前に一日を振り返ってみる。
◇まァ結果的に孤児たちも喜んでたし、孤児院の外を巡回していた衛兵からも「あの院長がいなくなったのは子供たちにとっても良かった」とさえ云われたから、それはそれで良しとしよう。
◇そして、瞼は閉じられ、闇が訪れた瞬間から、私の次なる試練が始まったのだ。

(續く)

投稿者 yoshimori : June 17, 2012 11:59 PM
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